2013.09.30 月曜日

豊橋発:保険の受取人欄の変更と利益相反行為

法律相談はE&J豊橋法律事務所の弁護士が対応いたします。

  中小企業の場合、生命保険などは節税対策とともに、いざというときの預金として機能する。代表者が死亡した場合の会社の打撃を填補する機能も果たすし、長年功労ある社長や取締役の退職金としても機能する。

 
 保険契約では特定の事故(死亡など)を理由に受取人に保険金が支払われる。保険契約を途中解約すれば解約返戻金が返還される仕組みになっている。受取人名義の変更は契約者、つまり会社の保険会社に対する一方的な行為で変更できるとされている。これは法律上は単独行為であるし、変更行為は受取人の地位の変動を伴うため、形成的な行為とされいる。
 
 ところで、会社の代表取締役が、受取人名義を会社から代表者個人に変更することはできるだろうか。受取人の変更に伴い、会社は保険金請求権を失い、代表者個人はそれを得る。会社の損は代表者個人の利益となるため、これは利益相反行為となると考えられ、会社法はこれを禁じている。受取人欄の変更は取締役会の決議が必要であるし、それが報酬となる場合には定款または株主総会の決議が必要となる。
 
 判例は利益相反を認めるものと認めないものとに分かれている。肯定する判例は上記の理由を述べる(仙台高裁H9.7.25)。否定する判例は、保険会社の地位の変動はないという事実を上げる。つまり、受取人の変更は一方的な行為であって、保険会社に拒絶の余地は無い。このような関係は会社法が予定した利益相反取引とは言い難いという。また、会社の不利益がそのまま保険会社の利益を得る関係にないため、利益相反はないというのである(大阪地裁S3.8.26)。
 
 この場合の利益の相反性はあくまで会社と代表者個人との関係である。保険会社は第三者であって利害関係は無い。保険会社との関係では利益相反関係がないのは当然のことで、このことから直ちに無効とする理由はない。しかし、代表者個人との関係では利益相反関係があるため無効と言える。第三者の利益は、利益相反性について善意かどうかで判断すればよい。
 
 つまり、名義変更行為は単独行為ではあるが、実質的には利益相反行為となり、取締役会決議がなければ無効となる。定着した判例はないが少なくない判例はこのような傾向にある。
 
  社長は往々にして、会社は自分のもの、死に際に多くの財産を家族に与えたいと思う。死に際に当たっては既に、代表者を退くことも多い。社長を退く前に、保険金などを家族にわたるようにするのだが、後継者としては当てにしていた保険金が入らなくなり、とんでもない苦労を負うことになる。そこに、このような裁判が生じる種がある。