名古屋E&J法律事務所ブログ

2012.07.05 木曜日

高齢者と交通事故(4)

高齢者と交通事故(4)
 
1 はじめに
2 高齢者事故における事故と後遺障害等との因果関係
(1)責任論
(2)損害論
(3)素因減額1
(4)素因減額2 ~ 裁判例概観 ~
—————ここまで過去の記事————–
(5)加重障害

 ① 問題の所在
   厚生労働省「身体障害児・者実態調査」(H18年度版)によれば、身体障害者の障害者の約60.2%が、65   歳以上の高齢者です。また、障害発症時の年齢構成を見ると、40歳以上での発症が、実に58.0%もいま   す。
    そうすると、高齢者が交通事故の被害者となるとき、すでに、なんらかの障害を持っていることが多くなり    ます。
    そこで、事故により、高齢者である被害者に何らかの後遺障害が残ったとき、「損害の公平な分担」の見    地から、後遺障害に基づく逸失利益と慰謝料の算定において、既存障害をどの程度考慮すべきかが問題    になります。
  
  ②  賠償実務における加重障害の取扱い
  ア 自賠責保険における取扱い
    自賠責保険において、加重障害とは、「既に後遺障害のある者が障害を受けたことによって同一部位につ   いて後遺障害の程度を加重した場合」をいうとされています。ここで、既存の後遺障害とは、先天的なもの    であると後天的なものであるとを問われません。また、後天的なものである場合、その原因が、別の交通事   故によるかどうかについても問われません。
       自賠責保険では、加重後の後遺障害に対応する保険金額から既存の後遺障害に対応す保険金額を控    除する取扱いになっています。
 
  イ 訴訟などの賠償実務における取扱い
  (ア)裁判では、必ずしも、自賠責保険における差引方式が採用されるわけではありません。
        例えば、3級以上の既存障害を有していた者(労働能力喪失率100%)が交通事故に遭い既存障害とは   別の部位に障害を残した場合や、14級の既存障害を有していた者が交通事故に遭い再度14級の神経症   状を負った場合に、逸失利益の喪失額を0円とすることは、必ずしも合理的ではないからです。
 
 (イ)もっとも、加重障害の逸失利益の算定に関する公式はなく、実情に応じて、裁判例もまちまちです。
      A方式: 本件交通事故自体による労働能力喪失率を認定し、;本件事故直前の収入にこれを乗じる方式
   B方式: 本件事故後(加重後)の後遺障害による逸失利益から、本件交通事故による受傷がなかった場合         の(既存障害のみによる)逸失利益を控除する方式
   C 方式: 本件事故後の逸失利益を、まず既存障害の存在を考慮せずに算定し、そこから既存障害を理由         として寄与度減額する方法
   などですが、各方式のバリエーションも存在し、一定ではありません。
    A方式による場合には、逸失利益の基礎収入をどう考えるか、本件事故自体の労働能力喪失率をどう認   定するかについては、争点となりうるところです。
    B方式による場合には、逸失利益の基礎収入に実収入を用いると、既存障害による影響を二重に評価し    てしまうという問題点がある。そこで、その人が健常者であれば得られたであろう収入を基礎収入とすべきと   いうことになるが、それをどう算出するかということについては、争いが残るところです。
        C方式による場合には、寄与度減額における減額率について、基準があるわけではなく、判断が裁判官に   よりまちまちになりうるという問題点があります。
 
 (ウ)慰謝料についても、既存障害が考慮されることがあります。
   A方式:  本件事故自体による後遺障害の程度に相応する慰謝料とする方式
   B方式:  本件事故の後遺障害による慰謝料額から、既存障害による分を控除する方式
   C方式:  本件事故の後遺障害に相応する慰謝料額から、寄与度減額の方式により一定額の減額をする        方式
   D方式: 本件事故の(加重後の)後遺障害に対応する基準額をそのまま認める方式
 
 ③ まとめ
   結局、事案に応じて、弾力的に算定されているということになります。
   加重障害の場合は、保険会社のいうことを鵜呑みにせず、早めに弁護士などの専門家に相談することをお   勧めします。
                                                                                                   以上
   次回「高齢者と交通事故(6)では、逸失利益に関する諸論点について、考えます。
 
(この記事は弁護士吉江仁子が担当しました)
 
 
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