名古屋E&J法律事務所ブログ

2017.03.31 金曜日

「湯通し塩蔵わかめ」産地の誤り事件

 塩蔵わかめは「鳴門産」が第一級だ。仕入れた鳴門産として仕入れたわかめが実は鳴門産ではなかったという事件があった。買主は直ちに請求しなかったために,数億円の賠償金が商法561条の制限を受け,ふいになってしまった。
 
 本件では産地が違った結果,業者は商品廃棄,商品回収を余儀なくされた結果,わかめ加工業者に対して,4億88413万8762円を請求した。判決は原告の請求を一部認容し,1億6966万5723円の支払いを命じた(東京地裁H25.1.22.判時2202号45頁)
 
 この事件では加工業者(Y)と購入業者(X)との間に商品販売についての基本契約が締結されていた。両者には購入仕様書が交わされ,Yは養殖国内芯抜一級鳴門産の商品を供給することになっていた。ところが,この商品について実は中国産ではないかとの指摘がされ,調べてみると鳴門産ではないことが判明したのである。
 
 なんで,そんなことになったかについては判決書には説明されているが,それは省略し,出荷当時Yにおいてもそんなことになっているとは気づかなかったという点が問題になった。わかめがどこの産地であるかは「同位体分析」という特殊な検査があってようやく確定する。通常取引ではそこまで要求されていない。自分には過失がないからYは責任を負わないというのだ。
 
 確かに債務不履行責任というのは注意義務と言って,不履行側,この場合のYにやむえない事情があれば責任を免れる。しかし,判決文はYによる本件のわかめの仕入れの経過からすれば,注意義務違反はあると認定した。債務不履行の場合,そもそも「債務の本旨」という言葉があって,それが履行されていなければ債務不履行として責任を負わねばならない。注意義務がないとして責任を免れるためにはかなり高度な立証が要求される。
 
 本件ではXによる「検収」が行われている。Xは検収にさいして品質を検査しているはずだ。YはXによる「検収」によって履行は完了していると主張した。つまり,問題を発見できなかったXが悪いという主張だ。しかし,検収があっても不完全な履行に対する責任はなくならないのが判例(最判S36.12.15)と裁判所はすげなくYの主張をしりぞけた。
 
 ところで,この事件,商法526条という条文が損害額を大きく減らす結果となった。
 商法526条は「商人」(会社,事業者は通常「商人」と言われます)は受領後,すぐに検査しなければならないと定めている。さらに,数量不測,欠陥など発見した場合には直ちに売主に通知しなければならない。通知しないと損害賠償請求できなくなる。
 
 さらに,本件のように,同位体分析という特別な検査でないとわからないような場合であっても,商品受領後6ヶ月以内に瑕疵についての通知を出さないときには損害賠償請求ができなくなる。このような特別な検査を6ヶ月以内に行えというのは酷と言えば酷だが,法律の条文がそうなっている以上,逆らえない。
 
 結局,この事件では欠陥の通知を発したときより,半年以上前の損害は請求できなくなり,賠償金額の大幅なダウンとなった。商法のこの条文は弁護士もそれほど使う条文ではない。企業弁護士としては産地が異なるというようなこのような事件を想定して,基本契約を見当する必要がある。
 
 
第526条
 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が6箇月以内にその瑕疵を発見したときも、同様とする。
3 前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。