名古屋E&J法律事務所ブログ

2018.06.18 月曜日

遺産分割の変更と課税

 税理士の先生方が主催する勉強会にも出ています。これは平成23年11月25日裁決に対する私のレポートです。法律上は遺産分割協議はやり直しがききますが,課税実務では原則許されません。

1. こんな時どうする
  遺産分割協議後,被相続人の遺産にかかわる事情が徐々に明らかになり,当初の予想と異なる事態が生じうる。一旦決まった協議をやり直して相続税の申告をすることのリスクはなんだろうか。

2. 事案の概要
  平成20年1月死亡したAを妻F,子供らH及びKが相続した。そこで,「Hが現金2000万円を取得する」などの内容の平成20年2月7日付けの遺産分割協議書(第1協議書)添付して法定期限内に相続税申告をした。
  その後,「Hが現金2000万円を取得する」との部分を削除した修正遺産分割協議書を作成した上(第2協議書),Hの相続財産は900万円であると加筆して(第3協議書)これを添付して平成22年1月22日に修正申告書が提出された。Hには900万円が現実に支払われている。Fが減額したのは相続後負債を繰り上げ返済したためにHに手渡す資金が不足したためである。
  この点,課税庁はHが相続した財産は2000万円であるとして平成22年3月2日相続税の更正処分及び過少申告加算税の処分を行った。
  また,Aの遺産にはF名義の預金があったが,これが申告されなかっためこれに対して課税庁は「隠ぺい仮装行為」であるとして相続税法19条の2,5項に基づいて相続税額軽減措置の適用を除外するとともに通則法68条1項に基づき更正処分及び重加算税の付加決定処分を行った。

3. 遺産分割修正の意義と問題点
  本件では第1から第3と遺産分割が修正されている点問題となった。
  遺産分割協議は当事者全員の合意によりいつでも変更できる(最判H2.9.27)。遺産分割の再協議が租税法上の修正をもたらすかは別の問題である。相続税額の減額更正については,申告納税制度を前提に租税法律関係の早期安定等の観点から,減額手続きを限定し,期間を所定の期間に限定している上,国税通則法及び相続税法において更正事由を限定列挙している。この租税関係早期安定の趣旨から再分割による遺産の取得は再協議によって取得したもので,相続によって取得したものとはされておらず修正は原則許されない(相続税基本通達19の2-8)。

  判例も再分割を原則として「相続に因る取得」とはしない。しかし,共有持分の再分割事例であること,配偶者控除を利用する目的であること,相続税申告期限にであることから「相続に因る取得」を是認している例がある(最判S62.1.22判タ631号114頁)。なお,錯誤無効などによって遺産分割の合意が無効となる場合があるが,判例は錯誤無効に加えて特段の事情がなければ修正を認めない(最判H18.10.6,但し,特段の事情を認めた事例として東京地判H21.2.27判タ1355号123頁(確定)がある)。

  本件審判では第1協議書が作成され申告されている以上それによって遺産分割は既に成立しているとして,課税庁による過少申告の判断を是認した。第2,第3協議書は全員の同意が無いため遺産分割の再協議があったとは言えないとした。本件は申告期限経過後であることや,負債の繰り上げ返済による現金の減少が修正の動機であり特別な錯誤はないことなどから,仮に第2,第3について全員の同意があった場合でも審判所の判断は是認できる。
  
4. 隠ぺい仮装行為の意義と問題点
  本件では調査時名義預金の存在を調査官に伝えなかったことから隠ぺい仮装行為の有無が問題となった。
  相続税申告に当たって相続財産について「事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し」「ていたとき」など隠ぺい仮装した場合には当該財産については配偶者控除の利益を受けられない(相続税法19条5項,6項)。また,過少申告加算税に加えて重加算税が課せられる。これは税と言うよりは申告の適正を実現するための行政罰であると解されている(国税通則法第68条第1項)。

  この法の趣旨及び過少申告加算税があることから単純な故意の過小申告では必ずしも隠ぺい仮装行為とは言えない。判例は隠ぺい仮装行為について「その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合」であるとする(最判小2H7.4.28判決)。

  本件の場合,税務署による調査においてAからFらへAの財産から形成された相続人ら名義の財産はないと述べ,預貯金通帳などの提示を求められたが提出しなかった。課税庁はこれを虚偽の答弁,隠ぺい仮装行為であるとした。

  審判所は隠ぺい仮装行為につき「積極的な行為」は必ずしも必要ではなく,「配偶者が、当初から相続財産を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合」にも隠ぺい仮装のの要件が満たされるとした。

  本件では名義預金はAが管理していたためFの財産であったと認識していいたとは言えないとしたものの,「私も一緒に働いてきたのに私の財産はゼロなのか」などといった言動などから「本件金融資産の一部は、同人に帰属するものであると認識していたものと認められる。」とし,明確にAのものという認識があったとも言えないとし,隠ぺい仮装の意図が外部からうかがえる行動があったとは言えないとした。

5. 事件の教訓
  税理士が遺産分割協議書作成に関与することは少なくない。税務上修正が難しいため納税者にはこの点説明し,協議に当たっては慎重を要する旨理解してもらう必要がある。できたら,遺言などによりあらかじめ遺産分割のあり方を協議しておくことが望ましい。

  また,多額の相続財産がある場合には通常税務調査があることから,税理士もこれを意識して名義預金についても遺産である旨,依頼者に警告することが多いと思われる。本件では税理士が名義資産の有無について質問すらしなかった事例である。依頼者には名義預金もまた遺産であること,それを申告しないこと不利益についても十分説明した上で正しく申告する必要があり,それが結局は依頼者の利益になるを思われる。