名古屋E&J法律事務所ブログ

2016.03.31 木曜日

偏波弁済

破産申立に当たって一番気を遣うは偏波弁済だ。偏波行為というのは支払い不能状態、破産状態であるにもかかわらず特定の債権者を優遇したり、義務もないのに財産を流出させる行為だ。破産法は偏波行為に対して否認権を行使できるとされている(破産法161条など)。否認できると、偏波行為は取り消され、移転財産を破産財団に返さなければならない。

 
 破産手続きというのは残された財産を平等に分配する手続きだ。「抜け駆け」は破産手続きの根幹に関わるもので厳しく追及される。また、破産直前に財産を流出させておいて、借金だけを消してしまおうというのは「正義」に反する。
 
 しかし、現実の場面では何が偏波行為となるかは難しいことが多い。というのは事業者はぎりぎりまで事業の継続を図っていく。客観的には支払い不能だろうと思われても、強い意志で事業をやり抜こうとする。そんな時には、何とかやりくりして、必要なところから払おうとするのだ。それが、仕入れ先であったり、外注先であったり、銀行であったりする。
 
 破産法162条1項2号は担保の供与や、債務の消滅に関する行為で「破産者の義務に属せず、又はその時期が破産者の義務に属しない行為であって、支払不能になる前三十日以内にされたもの。」については否認権を行使できるとしている。
 
 東京地裁平成22年7月8日判決の事例は特定の債権(150億円)を担保するために、預託金返還請求権(120億円)に質権を設定した事例だ。本件は150億円の債権がまだ履行期になっていなかった。にもかかわらず上記162条の「支払不能」になっているかどうかが争われた。「支払不能」であれば、120億円の預託金返還請求権についての質権設定は否認できる。
 
 破産法2条11項は支払い不能について「この法律において「支払不能」とは、債務者が、支払能力を欠くために、その債務のうち弁済期にあるものにつき、一般的かつ継続的に弁済することができない状態」と定義している。つまり、弁済期にあることが前提で支払ができない状態を支払い不能という。
 
 本件は150億円の債権については履行期は未到来だった。一方、弁済期債務については支払は進んでいた。このような状態で「支払不能」かどうか争われた。判決は破産法2条の文言を厳格に解し、否認権行使できないとした(判時2094号69頁)。