名古屋E&J法律事務所ブログ

2019.08.10 土曜日

好意同乗によって、対向車両運転者に対する損害賠償額は減額されるか

1 問題の所在
無償で他人の運転する車に乗せてもらう場合を、「好意同乗」と言います。
平成24年1月6日には、好意同乗中に、運転者に過失があって事故が起き、傷害を負った場合、運転者に対し、傷害の全額について、賠償請求をすることが出来るかについて、論じました。
今日は、事故の相手方ともいうべき、対向車両等運転者との関係について、お話します。

2 基本判例 ~ 最高裁判所平成13年3月13日判決(民集55-2-328) (1)この問題を論じるときに、基本判例とされるのが、最高裁判所平成13年3月13日判例です。
この事件では、交通事故後、搬送された病院で治療中に医療ミスで、被害者が亡くなりました。この死亡の結果を、加害車両の運転者に帰責できるかが争われました。
最高裁判所は、「①交通事故と医療事故とがいずれも死亡という不可分の結果を招来し、この結果について相当因果関係を有する関係にある場合には、右交通事故と医療事故とは共同不法行為にあたるから、各不法行為者は損害の全額について連帯責任を負うべきであり、複数の不法行為が順次競合した共同不法行為においても別異に解する理由はないから、各不法行為者の結果発生に対する寄与の割合をもって被害者の被った損害の額を案分し各不法行為者の責任を限定することは許されない。②本件のような共同不法行為においても、過失相殺は、各不法行為の加害者と被害者の過失の割合に応じてすべきものであり、他の不法行為者との間における過失の割合を斟酌して過失相殺することは許されない。」と判断し、二人以上の不法行為が競合して発生した被害について、被害者は、他の不法行為者との間における過失の割合を斟酌されることなく、損害賠償請求できることを明らかにしました。
(2)この道理を好意同乗のケースに当てはめて考えると、つまり、事故の発生原因との関係で帰責事由がない単なる好意同乗者は、運転者と対向車両等運転者の事故発生に対する過失割合に関わらず、いずれに対しても損害の全額を、賠償請求できることになります。
(3)この判例の考え方は、最高裁判所平成15年7月11日判決(民集57-7-815)でも踏襲されました。
ア これは、Aが,午前2時25分ころ,片側1車線の道路上に,普通貨物自動車を西側路側帯から北行車線にはみ出るような状態で駐車させていた(非常点滅表示灯等を点灯させることもなかった)ところ、Bが,普通貨物自動車を運転して,本件道路を南方から北方に向けて進行し,A車を避けるため,中央線からはみ出して進行したところ,本件道路を北方から南方に向けて,最高速度として規制されている時速40㎞を上回る時速80㎞以上で進行してきたCの運転に係る普通乗用自動車と衝突したという交通事故のでした。
イ 最高裁判所は、「Aには非常点滅表示灯等を点灯させることなく,A車を駐車禁止の車道にはみ出して駐車させた過失,BにはB車を対向車線にはみ出して進行させた過失,Cには速度違反,安全運転義務違反の過失があり、A,B,Cの各過失割合は1対4対1であると判示した上で、「複数の加害者の過失と被害者の過失が競合する一つの交通事故において、その交通事故の原因となったすべての過失の割合(絶対的過失割合)を認定できるときは、絶対的過失割合に基づく被害者の過失による過失相殺をした損害賠償額について、加害者らは連帯して共同不法行為に基づく賠償責任を負う。」と判断しました。   ウ つまり、被害者は、本件事故に基づく損害の内、自己の事故発生に対する帰責割合を控除した残額全部について、加害者各自に請求できるとしたのです。
3 好意同乗者の対向車両等運転者に対する請求に関する裁判例
(1)同乗者の過失割合を同乗運転者と対向車両等運転者の関係で同一としたもの
① 東京地裁平成13年3月13日判決(交民集34-2-374)
信号機により交通整理の行われていない交差点において、Aが運転し、Xが同乗する原動機付き自転車と、Bが運転する普通貨物自動車が衝突し、Xが死亡した事案。
裁判所は、Xが原動機付き自転車に同乗した上、ヘルメットを着用していなかったとして、A・B双方の関係で、1割の過失相殺をした。
② 大阪地裁平成12年1月19日(交民集33-1-91)
制限速度を30km/h以上超える速度で、かつ酒気帯びでBが運転する普通乗用車が、他車と共同で暴走行為をしていたAが運転する自動二輪車に追突し、自動二輪車に3人乗りで同乗していたXが死亡した事案。
裁判所は、Xは共同暴走行為をし、ヘルメットを着用していなかったが、Bの過失は重大で追突事故であることも考慮し、A・B双方の関係で、1割の過失相殺をした。
(2)同乗運転者と対応車両等運転者に対する関係で異なる過失割合(減額割合)としたもの
① 大阪地裁平成7年6月16日(交民集28-3-890)
Xが同乗し、Aが運転する自動二輪車が、信号機のない十字路交差点において、Bが運転する普通乗用車と衝突し、Xが死亡した事案。
裁判所は、Xの両親の、A・Bに対する請求について、Xは、Aが免許を有しないことを知り、またパトカーに追尾されなから制止しないばかりか逃走を助言していたなどの過失があるとして、Aとの関係で40%、Bとの関係で60%の過失相殺をした。
 ② 横浜地裁昭和63年6月30日判決(交民集21-3-677)
Xが同乗し、Aが運転する自動二輪車が、T字路交差点において、Bが運転する普通乗用車と衝突し、Xが死亡した事案。       裁判所は、Xの両親の、A・Bに対する請求について、Xは、24歳であり、未成年者である運転者A(17歳)の無謀ともいえる運転を中止させることが容易であったこと、事故発生の直前までAと酒を飲んでおり飲酒運転を助長したものといえること、見通しの悪い交差点で一時停止の標識があることを知り、左方から車両が進行してくることを知っていたのに注意を与えなかったことなどから、Aとの関係で3割、Bとの関係で7割の過失相殺をした。
4 まとめ
(1)まず、押さえておきたいのは、平成24年1月6日付け記事でも書きましたが、好意同乗であったという理由だけで、損害賠償請求を当然に制限するわけではないということです。
(2)そして、事故の発生について好意同乗者に帰責性がみとめられる場合には、事故発生にいたる経緯、それに対する好意同乗者の関与の程度の個別具体的な判断によって、運転者との関係でも、相手方車両運転者との関係でも、減額が認められることもあるということになります。