名古屋E&J法律事務所ブログ

2019.08.19 月曜日

妊娠中の交通事故と胎児の請求権

 妊娠中に、交通事故に遭った場合、赤ちゃん(胎児)の損害については、どうなるのでしょうか。  民法には、権利義務の帰属主体について「私権の享有は出生に始まる」(3条1項)との規定があり、原則として、お腹の赤ちゃん(胎児)は、母親とは別個独立の権利義務主体とは認められていません。ただ、損害賠償の請求(721条)や相続(886条)などの場面では、例外的に権利能力が擬制されています。
1 胎児の間に受傷し、生きて生まれた場合
(1)損害賠償請求権     民法には、「胎児は、損害賠償の請求権については、既に生まれたものとみなす。」(721条)とあり、胎児  の損害賠償請求権を認めています。つまり、胎児は,損害賠償の請求権については,既に生まれたものとみ  なされて、母親とは別個独立の権利義務主体として,出生後に、胎児である間に受けた不法行為によって生  じた傷害ないし後遺障害について、加害者に対して損害賠償請求をすることができます。     なお、損害賠償請求権はあっても、胎児の代理人に関する規定は存在しないので、「その損害賠償請求に  つき、母その他親族が、胎児のため加害者となした和解は、胎児を拘束しない。」とされています(大判昭7・1  0・6民集11-2023)。
(2)無保険車傷害条項に基づいて支払われる保険金(最高裁判所第3小法廷平成17年(受)第1751号損害賠  償等請求事件平成18年3月28日 )    ① 問題の所在      無保険者障害保険とは、被保険者が無保険車事故により死亡または後遺障害を受けたときに、その損   害を被保険者の付している対人賠償保険の保険金額の範囲内でてん補する保険です。       胎児は、先の民法3条1項により、未だ、「人(自然人)」と見なされないため、本裁判では、胎児の「被保険    者性」が問題となりました。   ② 結論         受傷時に、胎児であった場合でも、「被保険者性」が認められ、保険金を請求することができます。   ③ 判決要旨      無保険車傷害条項に基づいて支払われる保険は,法律上損害賠償の請求権があるが,相手自動車が   無保険自動車であって,十分な損害のてん補を受けることができないおそれがある場合に支払われるもの  であって,賠償義務者に代わって損害をてん補するという性格を有するものというべきであるから,本件保険  契約は,賠償義務者が賠償義務を負う損害はすべて保険金によるてん補の対象となるとの意思で締結され  たものと解するのが相当である。      そして,受傷時胎児であったXは,本件保険契約の記名被保険者の子であり,本件傷害等による損害につ  いて,加害者に対して損害賠償請求をすることができるのであるから,本件傷害等による損害について,記名  被保険者の同居の親族に生じた傷害及び後遺障害による損害に準ずるものとして,本件約款の無保険車傷  害条項に基づく保険金を請求できると解するのが相当である。
2 残念ながら、お腹の赤ちゃん(胎児)が死んでしまった場合 (1)交通事故が原因により、妊婦が流産をした場合には、残念ながら、先の民法3条1項により、胎児は、私権  の享有主体である「人」とは見なされませんので、母親の損害として、この流産・死産や中絶に対する慰謝料  を、通常の通院慰謝料とは別に請求します。 (2)慰謝料の算定方法  ア 生まれた後の死亡と同様に、胎児の成長具合や夫婦間にとってどれほど望まれた子なのか、またその家  族構成によって決まってきます。   イ 保険会社の任意基準    損保会社の任意基準では、妊娠3ヶ月以内で30万円、6ヶ月以内で50万円、7ヶ月以上で80万円くらいの  ようです。  ウ 裁判上の請求の場合    一応の目安としては、妊娠3ヶ月で100万円程度、10ヶ月で600万程度と言われています。また母親とは  別に父親にも固有の慰謝料が母親の2分の1程度は認められることがあります。
   胎児の受傷をめぐる法律関係は、理論的にも難しいところがありますので、もしものときには、是非、専門家  にご相談ください。