名古屋E&J法律事務所ブログ

2019.08.23 金曜日

「交通事故と破産② 被害者が破産した場合の問題(慰謝料請求権について)」

 交通事故の後,仕事を失ったり収入が減ったりして,その穴埋めのために借金を重ねることで,あるいは元々あった借金が返済できなくなることで,破産せざるを得なくなる場合があると思います。
前回(http://blogs.yahoo.co.jp/eandjnagoya/30458088.html)は,加害者側が破産したときの問題を検討しましたが,今回は,被害者が破産した場合の損害賠償請求権がどうなるかを検討したいと思います。
 
 まず,破産手続きを裁判所に申し立てて,破産手続きの開始決定が出されると,その開始決定が出された時までに被害者の方が持っていた財産は,原則として破産管財人によって管理されて,債権者への配当に充てられることになります(なお,このように破産管財人の管理の下に置かれた財産のことを,破産財団といいます。)。
これに対して,開始決定が出た後に被害者の方が得た財産は,被害者の方がそのまま持っていられることになります(破産法34条1項)。
 
 そうすると,破産開始決定が出された後に交通事故に遭った場合は,損害賠償請求をした金額は,そのまま被害者の方が全て持っていられることになります。
 
 しかし,これに対して,破産開始決定が出される前に交通事故に遭った場合,逆に賠償金額は全く被害者の方の手元に残らないのでしょうか。
この場合に破産をした被害者の方に損害賠償の金額が残るかどうかは,損害賠償の請求をすでに行っているかどうかといったことや,あるいは慰謝料や逸失利益といった,損害賠償の費目ごとによっても変わってきます。このため,複雑に場合を分けて考える必要があります。
今回は,このうち,慰謝料について検討したいと思います。
 
 慰謝料は,相続の対象にはなりますが,基本的に被害者の方ご本人だけが,請求するかどうかを決められる権利とされています。このため,請求を行う前の慰謝料請求権は,差し押さえることができないことになっています(行使上の一身専属権と言います)。
このように被害者の方の意思が尊重される権利ですので,破産手続きが終わるまでに,被害者の方がまだ裁判などで慰謝料の請求を行っていなければ,慰謝料請求権は債権者に配当される財産に含まれない(破産財団に含まれない)ことになります(破産法34条3項2号)。
 
 しかし,逆に破産手続きが終わるまでに慰謝料請求を行って,慰謝料の金額を実際に現金でもらった場合は,慰謝料はもはや金額の形になって他の財産と混ざって区別が付かないようになっているので,破産財団に組み入れられて配当に充てられることになってしまいます(ただし,異論もあります)。
 ただし,特に,裁判で慰謝料請求をして賠償金の支払を命ずる判決を得たが,まだ判決に基づいて実際の現金をもらっていない段階については,さらに争いがあります。判決がたまたま破産手続きの終わる前に出されるかどうかで,配当に回されるか被害者の方の手元に残るかが変わることになってしまうと,あまりにも偶然に左右される結果になるからです。ですので,この場合,慰謝料請求権は破産財団に帰属せず,配当に充てられないという見解も有力に主張されています。