名古屋E&J法律事務所ブログ

2019.10.25 金曜日

裁判例の検討~脳脊髄液減少症(低随圧症候群)~

【判決】

 横浜地裁平成24年7月31日判決
 
【事案の概要】
自動車同士の衝突事故により、脳脊髄液減少症を発症したとする原告が、後遺障害等級9級に該当すると主張して、損害賠償請求をした事案です。
 
【判旨】
 厚生省の「中間報告基準」を重要な診断基準と捉えた上で、原告には、同基準の参考所見となるものが複数見られることなどから、原告が、脳脊髄液減少症を発症したと確定的に認めることはできないものの、その疑いが相当程度あるとしました。
 そして、原告の頭痛・首や背中の痛みなどの神経症状は、脳脊髄液減少症によるものである可能性が相当程度あること、そうでないとしても、既往症がないこと、事故の態様等を総合して、原告の神経症状は、本件事故によるものであると認め、後遺障害等級9級に該当すると判断しました。
 
【若干の検討】
 この判決の重要な点は主に二点あると思われます。
 一つは、交通事故の被害者に症状が生じている場合に、その症状がどの病態に該当するか(病名は何か)は必ずしも絶対的なものではなく、現に症状があり、事故との因果関係が認められれば、後遺障害の存在を認めてよいとした点です。このような基本的な考え方に基づき、この判例は、脳脊髄液減少症は「相当程度の疑い」であるが、後遺障害等級9級に該当するとの判断を下しています。
 もう一つは、脳脊髄液減少症該当性について、判断基準を示した点です。
平成23年10月頃、厚生労働省の研究班が、脳脊髄液減少症について中間報告を行いましたが、今回の判例は、この「中間報告基準」を重要な診断基準としました。なお、この判例は、「中間報告基準」の「参考所見」が複数見られることの他に、ブラッドパッチの効果が一定程度あったことも、重要視しているようです。ともあれ、今後、脳脊髄液減少症の該当性にあたっては、この「中間報告基準」が重要な意味を持つようになってくるでしょう。
なお、中間報告には、例えば、以下のように、「確定」「確実」「強疑」「疑」「参考」などの所見が定められています。
「・起立性頭痛を前提に、びまん性の厚膜造影所見と60mmH20以下の髄液圧(仰臥位)があれば、低髄液圧症『確定』とする。
 ・起立性頭痛を前提に、びまん性の厚膜造影所見と60mmH20以下の髄液圧(仰臥位)のいずれかひとつがあれば、低髄液圧症『確実』とする。
 ・複数の『参考』所見があった場合には、訂髄液圧症『疑』とする。」