名古屋E&J法律事務所ブログ

2018.07.25 水曜日

高次脳機能障害

ようやく一般的になってきた外傷性の障害に高次脳機能障害があります。

厚労省のHPによれば、
「「高次脳機能障害」は、一般に、外傷性脳損傷、脳血管障害等により脳に損傷を受け、その後遺症等として生じた記憶障害、注意障害、社会的行動障害などの認知障害等を指すもの」とされています。
具体的には、「会話がうまくかみ合わない」、「段取りをつけて物事を行うことができない」「記憶力が著しく低下した」「以前と比べかなり怒りっぽくなった」等の症状があげられます。
これらは、日常生活において大きな支障をもたらす場合がありますが、一見してその症状を認識することが困難なため、家族を往々にしてとまどわせ、この障害のことを知らないがために、家族は時に絶望的な気分にさせられてしまいます。
 
厚労省によれば、高次脳機能障害の診断基準は以下のようになっています。
 
.主要症状等
1.脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている。
2.現在、日常生活または社会生活に制約があり、その主たる原因が記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの認知障害である。
Ⅱ.検査所見
MRICT、脳波検査などにより認知障害の原因と考えられる脳の器質的病変の存在が確認されているか、あるいは診断書により脳の器質的病変が存在したと確認できる。
Ⅲ.除外項目
1.
脳の器質的病変に基づく認知障害のうち、身体障害として認定可能である症状を有するが上記主要症状(I-2)を欠く者は除外する。
2.診断にあたり、受傷または発症以前から有する症状と検査所見は除外する。
3.先天性疾患、周産期における脳損傷、発達障害、進行性疾患を原因とする者は除外する。
IV.診断
1.IIIIをすべて満たした場合に高次脳機能障害と診断する。
2.高次脳機能障害の診断は脳の器質的病変の原因となった外傷や疾病の急性期症状を脱した後において行う。
3.神経心理学的検査の所見を参考にすることができる。
 
このように、厚労省の基準は、脳の器質的病変の原因となる事故等が確認され、高次脳機能障害としての症状が生じていれば、先天的な疾患などの除外所見にあたらない限りは高次脳機能障害と認める運用を認めています。
そして、「脳の器質的病変」については、必ずしも「画像」がなくても、「診断書により」判断できるものであれば良いとされています。
 
確かに、交通事故の被害者が高次脳機能障害となった場合、自賠責の高次脳機能障害の認定でも、裁判でも、「画像」所見が重視される傾向はあります。
 
つまり、高次脳機能障害には、脳が部分的に損傷した場合(局在性脳損傷)と幅広く小規模に損傷した場合(びまん性軸索損傷)がありますが、後者では、大脳全体の皮質下、すなわち白質の神経繊維にびまん性の断裂が生じ、神経ネットワークの障害により、注意障害、遂行機能障害、易疲労などが生じるとされています。そして、びまん性軸索損傷では、急性期に大脳皮質下、脳梁、基底核、脳核などに散在している組織断裂による小さな点状出血が生じることになるというのが一般的な考えであり、この画像所見が重視されているのです。
このような組織の断裂は、びまん性軸索損傷が生じた後、損傷した軸索が変性・吸収されていく中で、慢性期(数ヶ月後以降)に脳萎縮・脳室拡大という所見へと変化していきます なお、脳萎縮・脳室拡大は一度生じてしまうと元に戻りません。従って慢性期以降ではこのような画像所見が重要になります。
 
しかし、裁判例をみていると、実際は、高次脳機能障害と判断するにあたって、画像は必須のものとまではされていません。
これは、上記のように、厚労省の基準が「脳の器質的病変」については、必ずしも「画像」がなくても、「診断書により」判断できるものであれば良いとされていることとも関連します。
こういった判断がされているのは、結局、急性期の点状出血や慢性期以降の脳萎縮・脳室拡大といった所見は、高次脳機能障害の患者さんであっても、ごく軽度のもので画像上表れなかったり、そもそも生じないこともありうると考えられているためではないかと思います。
実際、私は、日本における高次脳機能障害の第一人者とも言ってもいいほどの専門医にこの点を尋ねたことがあるのですが、こういった画像がない患者さんは実際多数いる、ということでした。

画像の有無にとらわれて泣き寝入りすることは避けねばなりません。


(この記事は弁護士小島寛司が担当しました)
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