名古屋E&J法律事務所ブログ

2018.06.11 月曜日

交通事故 人身傷害と過失相殺

 あらかじめ人身傷害保険から保険金を受領した場合、加害者に対して損害賠償請求をする金額は、保険金から被害者の過失に相当する損害分を差し引いた残りを損益相殺として加害者に請求する損害から差し引くという方法となります。

 人身障害保険というのは交通事故被害者となった場合に過失の有無を問わず保険会社に請求できる保険だ。自動車保険のような対人賠償責任保険は加害者となった場合の保険であるのに対し、人身障害保険は被害者となった場合の保険ということになる。


 人身傷害の保険の支払額は約款に従う。
 約款には損害額基準が記載されている。この保険基準額は通常裁判所が判定した金額(裁判基準額)より小さい。そのため、人身傷害保険が支払われても裁判基準額との差額を追求して裁判することになる。
 つまり、裁判基準額から保険基準額を差し引いた金額を請求する。

 ところで、過失相殺がある場合にはやっかいな問題が起こる。
 これはかなり高度な問題だ。

 裁判ではあらかじめ賠償金をもらった場合には損益相殺の対象となる。
 過失相殺がある場合には、まず過失相殺してから、もらったお金を損益相殺として差し引く。
 人身傷害保険でもらった金額はどの範囲で損益相殺の対象となるだろうか。

 この場合、なぜやっかいかと言うと、人身傷害が被害者の過失とは関係なく支払われるという点だ。過失相殺部分は本来人身障害保険がカバーすべき点だから、損益相殺の対象となるのは既払いの人身傷害保険金の内から、裁判基準金額の過失相殺部分を差引き、その差額をもって損益相殺の対象とするべきではないかという考えもあるからだ。

 これはややこしくて、これを読む人は何が書かれているか分からないかもしれない。
 
 ともかく、この点、最高裁が基本的な考え方を示した(最高裁判所第一小法廷平成21年(受)第1461号)。 これは訴訟基準説と呼ばれるもので、結論だけ言うと次のようになる。

 「保険金請求権者に裁判基準損害額に相当する額が確保されるように,上記保険金の額と被害者の加害者に対する過失相殺後の損害賠償請求権の額との合計額が裁判基準損害額を上回る場合に限り,その上回る部分に相当する額の範囲で保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得すると解するのが相当である。」

 これも、さらに分からないだろう。

 つまり、人身障害保険が先行して支払われた場合、人身障害保険の保険会社は、「(保険基準額+過失相殺後の裁判基準賠償額)-裁判基準額」をもって求償できるとしたのである。人身障害保険金額をまず過失相殺額に当て、その残金を求償できるとした。これは保険会社の加害者に対する求償の問題だ。

 しかし、求償できる範囲が損益相殺の範囲とした場合、既払いの人身傷害保険金中、過失相殺で減らされた分を差し引いた金額が損益相殺の対象となる。言い換えれば、人身傷害保険は損益相殺に関わる限り、過失相殺分を支払うことになる。

 最高裁がこのような訴訟基準説を選択したのは、保険約款に求償の範囲を決める文言として「保険金請求権者の権利を害さない範囲」で求償できるという文言があって、その解釈として過失相殺分にまず人身障害保険金額を充当するという考えたからだ。

 ところで、これは裁判に先行して人身障害保険金が支払われた場合だ。
 判決の後に人身傷害保険を請求する場合にはまた別の話になるのでこの問題はさらにややこしい。よほど交通事故問題に詳しくないと分からない。

 この問題は大阪高等裁判所平成24年6月7日判決判例時報2156号126頁を参照されたい。あまりややこしいので今日は力尽きた。to be continue !