名古屋E&J法律事務所ブログ

2018.11.30 金曜日

交通事故 人身傷害保険先かあとか

 人身傷害保険は被害者が何らかの事故に遭遇した場合に損害を填補する保険だ。加害者になった場合に支払われる保険とは根本的に発想が異なる。

 人身傷害保険は保険約款によって支払われる保険金額が決まっている。保険基準額は通常裁判所が認める裁判基準額より金額より低い。

 被害者が人身傷害保険に加入している場合、先に人身傷害保険をもらった方が得か、損かという問題がある。特にこれは過失相殺で裁判基準額が減らされてしまう場合に問題になる。

 なお、一口に人身傷害保険といっても時代によって契約内容が異なるので注意する。しかも、この問題はけっこうややこしいので、保険会社の言うことでもまちがっていることがあって、うかつに信じられないからやっかいだ。

 ① 自賠責法3条の賠償がある場合は支払わないという約款があるもの。
 ② 過失相殺部分は支払うという約款がないもの。
 ③ 過失相殺部分に対しても支払うという約款があるというもの。

以下は、②の場合についての考察だ。

【先にもらう場合】
 先にもらうと、もらったお金は損益相殺として裁判基準額から減らされる。いくら減らされるかというと、

 保険基準額-(裁判基準額×過失相殺割合)

 が裁判基準額から減らされてしまう。つまり、人身傷害保険で支払われる金員はまず過失相殺で減らされた金額を差し引いて、その残金を損益相殺額として差し引く。

 たとえば、裁判基準額1000万円、保険基準額500万円、過失相殺4割という場合。
 人傷保険金額の損益相殺額は次のようになる。

  500万円-1000万円×0.4=100万円
 従って、賠償額は
  1000万円×(1-0.4)-100万円=500万円

  すでに人身傷害保険から500万円を受け取っているので、
  500万円+500万円=1000万円
  を受け取ることになる。
 
 このような結論になるのは近時最高裁判所が人身傷害保険の求償金額について判断した結果だ。最高裁は人身傷害保険の求償権に関する約款のうち「債権者を害さない範囲」という解釈の問題としている。
 この議論は非常にめんどうなので省略する。

【後からもらう場合】
 裁判で過失相殺分を差し引かれて、支払いを受けた場合
 通常人身傷害保険の約款に従うと、

 人身保険基準額-加害者から受領した金額-その他損害を填補する目的の支給

 ということになる。
  前記の例からすると
 ① まず、裁判で次の金額を受け取る。
   1000万円×(1-0.4)=600万円
 ② 人身傷害保険は次のようになる。
   500万円-600万円(加害者から受領した金額)=-100万円
    実際には0円ということになり、人身傷害保険からは受け取れない。
 ③ 結局、被害者は600万円しか受け取れない。


【結論】
 このように、人身傷害保険を先にするか後にするかでかなりの違いが出てくる。これは明らかに不合理なのだが、大阪高裁はこの結論を認める(平成24年6月7日判決判時2156号126頁)。しかし、その原審である京都地裁は違うし、大阪高裁の判決に対しては現在最高裁に上告中だ。
 
 私としては、人身傷害保険の場合、自損事故(過失相殺100%減額)の場合でも支払われるのに、加害者がいるような事件ではかえってもらえる金額が小さくなると言うのは不合理で、過失操作部分についても人身傷害保険から出されるのが筋だと思う。