2013.10.21 月曜日

豊橋発:高齢者と交通事故(3)

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1 はじめに 2 高齢者事故における事故と後遺障害等との因果関係
(1)責任論
(2)損害論
—————ここまで過去の記事————–
(3)素因減額
ア 高齢者事故特有の問題点  高齢者は、事故前から身体に加齢に伴う生理的機能の低下や経年性の変化・変性が生じていたり、種々の既往症や治療歴を有している場合が少なくありません。また、一般に、若年・壮年の被害者と比較して体力に劣り、事故後の治療等に対する精神的ストレスへの耐性も低いことから、長期の入院などの事故後の生活環境の変化によって、全身状態が悪化することが、しばしば見られます。また、被害者が事故後の治療中に死亡にいたる事案も少なくないのですが、死亡の原因によっては、医学的に事故との因果関係を解明することが困難な事案も存在します。   このような場合に、加害者の損害賠償責任が「素因減額」されてしまうことがあります。
イ 素因減額とは    違法な加害行為によって被害者が怪我をしたり命を落とした場合において、その結果が、その加害行為によって通常発生する程度、範囲を超え、かつ、その結果の発生・拡大に被害者の素因が寄与しているときに、裁判所が損害賠償の額を定めるにあたり、加害者に損害の全部を賠償させるのが公平を失すると判断して、損害の拡大に寄与した被害者の素因を考慮し、加害者の損害賠償責任を減額することを言います。   素因減額は、法律上、明文の根拠はありませんが、損害を公平に分担させるという損害賠償法の理念に照らし、民法722条2項の過失相殺の規定を類推適用して行われています。      
ウ 素因減額で検討の対象となる被害者の素因は、被害者が高齢者であるかどうかに関係なく、以下の2つに分類されています。
  ① 被害者の性格や精神的疾患等の「心因的素因」
  ② 被害者が罹患していた疾患ないし既往症、身体的特徴という「体質的素因」
 
エ 裁判例(神戸地判平成12年7月18日)
【事故の概要】   被害者は、事故当時82歳の男性です。トンネル内において、加害車両が被害者運転の自転車に追突し、被害者が転倒しました。    被害者は、右肋骨骨折、後腹部腰部打撲、全身打撲、顔面擦過傷、頭部打撲兼切創、右腓骨近位端骨折の傷害を負い、9日間入院し、退院2日後、自宅療養中に冠状動脈硬化症による急性心不全で亡くなりました。
 
【事故処理の経過・加害者の主張等】   事故直後の急性心不全による死亡について、自賠責保険も、当初は因果関係不明としていましたが、被害者側が5回におよぶ異議申立てを行い、ようやく因果関係を認めるにいたりました。   本裁判で、被害者側は、自賠責を超える部分の損害賠償を請求しましたが、加害者は、「被害者の死は、病死および自然死とされるものであり、本件交通事故との間に因果関係はない。仮に認められるとしても、本件事故の寄与度は極めて少ない。」と主張しました。
 
【裁判所の判断】    裁判所は、被害者の死亡原因・死亡にいたるメカニズムの解明は困難であるとしても、事故が死亡の引き金になったこと自体は否定出来ないことから、死亡という事実に事故が寄与していることは認め、被害者の年令、受傷体様、退院時の状態、死亡にいたるまでの時間的経過を総合的に勘案し、被害者保護の観点から、事故と死亡との因果関係を認めました。    しかし、被害者の直接死因は、急性心筋梗塞であって、その原因は、冠状動脈硬化症であり、本件事故による受傷がその発症原因であることを客観的に認めるに足りる証拠がないとして、死亡慰謝料は、1200万円が相当であると判断されています(一家の支柱でない場合の死亡慰謝料は、いわゆる青本基準で、2000~2400万円)。
 
オ このように、高齢者が被害者となった事案では、交通事故による受傷だけでなく、高齢者特有の様々な事情が競合することから治療の長期化、後遺障害の残存あるいは死亡という重大な結果が発生した場合には、当該事故との相当因果関係及び素因減額が争点となることがあります。
  次回「高齢者と交通事故(4)では、引き続き高齢者の交通事故における素因減額について、裁判例を概観しながら、掘り下げて考えていきます。                                                                                                                                   以上