2014.04.08 火曜日

豊橋発:交通事故加害者に対する損害賠償請求と人身傷害保険②(加害者に対する損害賠償請求が先行する場合)

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前回は、人身傷害保険からの支払いが先行する場合について書きました。
この場合は、判例が確立しており、人身傷害保険から支払いを受けた後の損害賠償裁判では、損害全部を補償されるように解釈されていました。では、加害者に対する損害賠償請求訴訟が先行する場合はどうでしょうか。
この場合には、考え方が分かれていますが、大阪高裁平成24年6月7日判決は、以下のように判示しました。(難しいのでとばしても大丈夫です。)
 
大阪高裁平成24年6月7日判決
次の(1)及び(2)のような条項のある自動車保険契約の人身傷害補償特約の被保険者である被害者に過失がある場合において,加害者から既に損害賠償金の支払を受けた保険金請求権者が保険会社に支払を求めることができる人身傷害補償保険金の額を算出するに当たっては,上記条項の文言を重視して,人身傷害補償特約損害額算定基準に従い算出された金額の合計額から既に支払を受けた損害賠償金を控除した残額をもって人身傷害補償保険金の額とすべきであり,被保険者である被害者について民法上認められる過失相殺前の損害額から既に支払を受けた損害賠償金を控除した残額をもって人身傷害補償保険金の額とすべきではない。(1)保険会社が保険金請求権者に支払う人身傷害補償保険金の額は,人身傷害補償特約損害額算定基準に従い算定された金額の合計額から保険金請求権者が損害賠償義務者より既に取得した損害賠償金を控除した額とする。(2)保険会社は保険金請求権者に支払った人身傷害補償保険金の額の限度内で,かつ,保険金請求権者の権利を害さない範囲内で,保険金請求権者の加害者に対する損害賠償請求権を代位取得する。
 
かなり、難しいですが、この判例の枠組みに従うと、例えば、全損害(裁判基準)が、1000万円で、過失割合が、こちら2:加害者8だったとします。この時、こちらは損害賠償訴訟でまず加害者(の保険会社)に800万円を請求することができます(これは当然です)。
しかし、その後、こちらの任意保険会社に人身傷害保険の分を請求するとなった場合、200万円が支払われるというわけではない、ということになります。人身傷害補償特約損害額算定基準という任意保険会社が定めている基準から、800万円を控除した残額のみを請求できるということです。従って、例えばこの算定基準で900万円が限度額となっていた場合は、100万円しか任意保険会社に請求できないということになります。
 
この大阪高裁の裁判例に従えば、損害賠償訴訟と人身傷害保険への請求どちらが先行するかで、不均衡な結果となることは明らかです。
 
ただ、この裁判例は、詳細な理由付け(言い訳)を展開した上で、不均衡もやむを得ないと判断していることからして、損賠償訴訟先行型の同様の事案に際し、各裁判所において先例として考慮されることは避けられないでしょう(ただ、この大阪の事案は現在上告中なようなので、最高裁判所でひっくりかえる可能性もあります)。
いずれにせよ、同判例は、特約の文言をかなり重視しています。
確かに、本件事案の特約は、上記のように、明確な規定になっています。特約の文言が違えば、異なる考え方も十分あり得るでしょう。(実際、現在はこの大阪高裁の事案のような特約の規定ぶりにしている所は少ないようです)
また、この大阪高裁の裁判例は、以下のような【二次的な計算規定】が規定されていることを理由の一つとして挙げ、人身傷害保険への請求が先行した場合との不均衡が生じてしまうことが、文理どおりの解釈をすることが許容できないほど不合理とまでは言えない、としています(この二次的計算規定によれば一般に金額はもう少し高くなります)。従って、このような二次的計算規定がない約款の場合は、結論が異なりえます。
【二次的計算規定】①保険会社の同意を得た場合に、②人傷基準損害額に保険金請求権者の過失負担割合を乗じて保険金額を算出する。
 
更に、過失割合によっては、不均衡があまりに大きくなる可能性もあり、その場合は結論が異なりうると言えるでしょう。
 
結局、特約の文言とその解釈によっては、損害賠償訴訟への請求を、人身傷害保険への請求より先行して行った場合、損をする場合があるということです。
自分の任意保険に人身傷害補償特約がついている場合は、損害賠償訴訟を起こす前に、必ず、まずその文言と、先例を調べる必要があるでしょう。